トラック・バイ・トラックはリスナーに鮮やかなリスニング体験をもたらしてくれるプレイリスト。アーティストが自らアルバムを紹介する限定オーディオコメンタリーには、作品の背景やパーソナルな洞察など、ここでしか聴けない内容が含まれ、音楽をより身近に感じさせてくれる。 ベルリンを拠点に活動するピアニスト三浦謙司は、本作でドイツ音楽を奏でることによって普遍的な帰属意識について探求している。アルバムタイトルのドイツ語“Heimat”は単に“故郷”とも訳されるが、深い精神的つながりや安らぎを感じられる場所を意味する言葉だという。神戸出身の三浦は、日本、イギリス、アラブ首長国連邦、そしてドイツの4か国で暮らしてきた。最も長く住んでいるのがドイツだが、帰属意識を持つには時間を要したようだ。しかし、父親になったこともあり、変化が起こった。このアルバムで三浦が奏でているのは、彼がベルリンを自身の“Heimat”と呼ぶまでの感情的なプロセスを表現するべく選んだ、ベートーヴェン、シューマン、ブラームスの作品だ。心のよりどころとなる居場所を見つけたいと願う中で抱えていた三浦の不安を象徴するようなベートーヴェンの『ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op. 57、“熱情”』。父親という新たな視点を得たからこそ奏でられたシューマンの『子供の情景 Op. 15』、そして、最近になって自分の一部のように感じられるようになったというブラームスの『7つの幻想曲 Op. 116』まで、三浦はその輝くようなピアニズムで、自身の心の移り変わりを実に詩的に表現している。そして、三浦謙司が自らの言葉で語る、それぞれの収録曲にまつわる解説を聴けば、より深みのある音風景が見えてくるはずだ。