前奏曲とフーガ第1番 ハ長調

BWV 846、“平均律クラヴィーア曲集第1巻”

バッハによる『平均律クラヴィーア曲集第1巻』の「前奏曲第1番 ハ長調」が、これまでに書かれた鍵盤楽器のための楽曲の中で最も有名なものの一つとなった理由としては、その親しみやすさや、弾いた時の気持ち良さなどを挙げることができる。これらの二つの要素は、この曲の初期稿が、当時11歳だったバッハの息子、ヴィルヘルム・フリーデマンのために書かれた曲集の中にあることを知れば、うなずけるものであろう。「前奏曲第1番」はとてもシンプルな和音の連なりでできており、その和音は複数の音を一斉に鳴らすのではなく、右手による波打つようなアルペジオで表現される。演奏者に求められるのはスムーズで均一な流れだ。続くフーガはぐっと難しくなり、演奏者は、主題の四つのバージョンが少しタイミングをずらして現れるのを、うまく弾きこなさなければならない。1850年にはフランスの作曲家シャルル・グノーが、この「前奏曲」の伴奏に声楽のための旋律を乗せた「アヴェ・マリア」を書き、この曲も非常に広く愛されてきている。 バッハの『平均律クラヴィーア曲集第1巻』について もし、バッハの楽曲の中で、彼が亡くなってから数百年の間に最も大きな影響力を発揮してきた作品の投票を行ったとしたら、『マタイ受難曲』と『平均律クラヴィーア曲集』が上位に食い込むことは間違いないだろう。日本では“平均律”というタイトルが当てられているが、原題の“wohltemperierte”は“良くチューニングされている”という意味の言葉だ。この当時の新しい調律法によって、一つの鍵盤楽器ですべての調性の楽曲を演奏することが可能になったのだ。バッハは『平均律クラヴィーア曲集』の『第1巻』と『第2巻』に24調性のすべてを使った曲を収録し、“平均律”の可能性をアピールした。バッハは自身の既出の作品を使いつつ、『第1巻』を1722年ごろに、『第2巻』はその20年後に完成させた。バッハは、あらゆる鍵盤楽器の奏者にとって役に立つ楽曲となることを意図して、この作品を書いたと考えられている。

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