二重協奏曲 イ短調
ブラームスが『ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲』を作曲したのは、名ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムに対して和解の意思を示すためだったといわれる。2人は古くからの友人だったのだが、ヨアヒム夫妻の離婚訴訟の時にブラームスが妻側に付いたことで仲たがいしてしまったのだ。ヨアヒムとの関係の修復を強く願っていたブラームスは、ヨアヒムと、ヨアヒムが率いていた弦楽四重奏団のチェリストであり、ブラームスの二つのチェロ・ソナタを広めることに大きく貢献したロベルト・ハウスマンをフィーチャーした作品を書くことを思い付いたとされる。初演は1887年にケルンで行われたが、残念ながらその反応は少々冷ややかなものだった。しかし現在のリスナーには、二つの独奏楽器の特徴を生かして書かれた素晴らしく表情豊かなこの楽曲が、当初は聴く喜びに欠けるとっつきにくい作品として批判されたというのは、不可解なことに感じられる。重厚な第1楽章「アレグロ」は、第1主題の断片をオーケストラの総奏で簡潔に提示するという非常にドラマチックな形で幕を開け、その後にはチェロとヴァイオリンによるレチタティーヴォ風の演奏が続き、やがて情熱的なクライマックスを築き上げていく。以後、この曲はよりオーソドックスな路線に沿って進み、ソリストとオーケストラによる主題のインタープレイは、シンフォニックな表現の中で鮮やかに描き出されていく。第2楽章と第3楽章は、よりシンプルな構造を持っている。黙想的な「アンダンテ」では、ヴァイオリンとチェロが1オクターブを隔てたユニゾンで奏でる厳かで温かい旋律を味わうことができ、軽快な中にも時折シニカルさを感じさせる終楽章には、ブラームスの他の多くの作品でもおなじみのハンガリー民謡のエッセンスもふんだんに盛り込まれている。
