ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調

Op.  97、“大公”

1809年、ベートーヴェンが拠点としていたウィーンにナポレオンが侵攻した。これによってベートーヴェンの最も有力なパトロンであり、ピアノと作曲の弟子でもあったルドルフ大公は、逃亡を余儀なくされてしまう。大作曲家はこの危機的な状況と、大公が翌年に帰還したことを喜ぶ気持ちを、ピアノ・ソナタ『Les Adieux(告別)』に反映させたと考えられている。そしてそのすぐ後の1810年から1811年にかけて、ベートーヴェンがルドルフ大公へのプレゼントとして作曲したのが、シンフォニックなスケールを持つ壮大な『ピアノ三重奏曲第7番』だった。大公が弾いて楽しむことを想定したこの作品のピアノパートが、高度なテクニックと並外れた表現力を要するものであることから、大公がかなり優れたピアニストであったことをうかがい知ることができる。しかし、この三重奏曲は単に大公の腕前を披露するための曲とはなっていない。ヴァイオリンとチェロもピアノに負けない存在感を発揮しており、これら三つの楽器の、ダイナミックで、優しく、音楽的ユーモアにあふれた関係性が、この三重奏曲に特別な豊かさと活力を与えているのだ。第1楽章は、ドラマと叙情的な広がり、そして貴族的ともいうべき威厳を兼ね備えている。第2楽章は、遊び心を感じさせながらも時折不穏な表情を見せるスケルツォとなっており、続いてベートーヴェンの作品の中で最も穏やかな瞑想曲の一つであり、賛美歌を思わせる静かな主題に基づく非常に美しい変奏曲形式による第3楽章が現れる。終楽章の冒頭では、ベートーヴェンの一気に雰囲気を変える優れたセンスが存分に発揮されており、リスナーは第3楽章の神聖な世界から地上へと引き戻されながらも、大いなる喜びを感じることができる。

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