交響曲第8番 ヘ長調

Op. 93

『交響曲第8番』はベートーヴェンの交響曲の中にあっては小さい規模の作品だが、ここに込められたスピリットは偉大なものだ。演奏会での評判が『第7番』より悪かったと聞かされたベートーヴェンは、「この作品(『第8番』)があまりにも優れているが故、聴衆にはこれが理解できないのだ!」とシニカルに笑ったという。ひょっとすると彼は、「『第7番』より優れた交響曲などあるだろうか?」という問いに対する予防線を張っていたのかもしれない。確かに『第8番』は比較的スレンダーなプロポーションを持っており、ハイドンやモーツァルトの古典主義に対する少々皮肉まじりのオマージュも含んではいるが、実は非常に独創的で、驚きに満ちた作品だ。冒頭部分は不意打ちのような大音量の総奏と非常に穏やかで静かなフレーズとのコントラストになっており、第2楽章ではメトロノームのようなリズムが、淡々と、そしてメトロノームが壊れるまで続くのではないかと思うほど延々と、刻まれていく。第3楽章は通常のスケルツォではなくメヌエットになっているが、これは宮廷の優雅さを思わせるオーセンティックなメヌエットとはやや趣が違うもので、むしろ牧歌的な風景の中の楽しい酒盛りのただ中にいるような気分を醸し出す。疾走する終楽章は、まるで稼働中の機械にスパナでも投げ込むかのような大胆な方法でリスナーをはらはらさせながら、意外性のある方向転換を行っていく。そんな『交響曲第8番』は通好みの交響曲といわれているが、実はその巧みさを理解するのに専門的な知識は必要ない。その本質は、繰り返し聴くことによっておのずと見えてくるはずだ。

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