弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調
Op. 59/1、“ラズモフスキー第1番”
ベートーヴェンがラズモフスキー伯爵に依頼されて作曲し、同伯爵に献呈した3作の弦楽四重奏曲は、1806年にウィーンで初演されると、このジャンルにおける画期的な作品として称賛を集めた。その理由は、『ラズモフスキー四重奏曲』という通称で親しまれてきたこれら一連の作品の最初の曲である『弦楽四重奏曲第7番』を聴けば分かるはずだ。『交響曲第3番「英雄」』の冒頭をほうふつとさせる第1楽章「アレグロ」では、豊かな旋律が意外性のある書法で複雑に描き出され、展開部は力強いクライマックスへと到達し、コーダは第1主題をさらに発展させながら、決然とした結末へと至る。より革新的な第2楽章「アレグレット・ヴィヴァーチェ」は、スケルツォというよりはソナタに近い形式を取っており、冒頭のつっかえながら進んでいくようなリズムからあらゆるフレーズが生まれていく。“アダージョ・モルト・エ・メスト”、つまり、“とてもゆっくりと、悲しげに”と記された第3楽章は、静かでいながら雄弁に語りかけてくる曲だが、追悼の意が込められた『英雄』の緩徐楽章のように、明確な意図を持っているのかどうかは分かっていない。第4楽章は前の楽章の最後にある第1ヴァイオリンのカデンツァから切れ目なく開始され、ラズモフスキー伯爵のリクエストに応えて挿入されたロシア民謡の旋律とされる主題を展開させながら進んでいく。そしてこの曲が持つ奔放なエネルギーとオプティミズムは、喜びにあふれたエンディングにまで貫かれている。
