1860年にカタルーニャ地方で生まれた作曲家イサーク・アルベニスの少年時代については、その神童ぶりを伝えるさまざまな逸話が語り継がれている。それらのほとんどは事実でないとされるが、誇張されたエピソードがまことしやかに流布されたのは、アルベニスが驚くべき才能を持つピアニストだったからだろう。人生の多くの時間をフランスで過ごしたアルベニスは彼の地の作曲家たちと交流を深め、彼らの音楽を吸収した。その一方で母国のルーツミュージックを大切にしたアルベニスは、民族音楽の旋律やリズムをパリ仕込みの洗練されたスタイルの中で輝かせ、魅惑的な楽曲を多く生み出したのだ。ニューヨーク・タイムズはかつて、晩年の傑作『Ibéria(イベリア)』を「3本の手を持つ優秀なピアニストが果てしない年月をかけて練習し、なおかつ半分のテンポで弾くことが許されれば弾けないこともないだろう」と、ユーモアたっぷりに絶賛した。これに対して、アルベニスと同じカタルーニャ出身の名ピアニスト、アリシア・デ・ラローチャの手は非常に小さいとされるが、本作における彼女の『Iberia』は、卓越した技術を背景に楽曲の本質を見事に描き出したもので、この難曲の数ある音源の中でも最高峰のものの一つと見なされている。合わせて収録された「Navarra(ナバーラ)」や『Suite española, Op. 47(スペイン組曲 第1集)』も繊細かつ鮮やかに奏でられ、リスナーをスペインのさまざまな場所へのイメージトリップへといざなってくれる。
作曲者
ピアノ