モーツァルトの作品において最も苦悩と激情に駆られた3つの作品と、シルヴェストロフの穏やかで透明感あふれた音楽を、痛みと癒し、争いと解決のように見事に対比させたピアニスト、エレーヌ・グリモーによる感性あふれるアルバム。シルヴェストロフによるゆらゆらと光る「The Messenger」は、現代のレンズを通して過去を見つめた作品で、悲愴感ただようモーツァルトの「Fantasia No. 4 in C Minor」の、不安と怒りをあらわにするような本能的な演奏の後に、穏やかな解放感を与えてくれる。そしてワーグナーを思わせる『Two Dialogues with Postscript』では、旅の終わりの安らぎのような感覚を呼び起こす。アルバムの中核を担う、ベートーヴェンのような雰囲気を持つモーツァルトの「ピアノ協奏曲第20番」は、作品を通して感情の両極を表現した傑作。緩徐楽章の優しい「Romance」が、苦悶と悲劇性に満ちた第1、第3楽章に包み込まれるように構成されている。