ドイツのバリトン歌手マティアス・ゲルネの艶のある歌声は、後期ドイツロマン派の作曲家による濃厚な味わいの歌曲によく似合う。 それは、後にワーグナーが偉大なオペラ作品『Tristan und Isolde(トリスタンとイゾルデ)』の中で一部の旋律を再利用した、『Wesendonck Lieder(ヴェーゼンドンク歌曲集)』における豊かで官能的なハーモニーを聴けば明らかだろう。また、リヒャルト・シュトラウスの歌曲にも美しさと苦悩が併存する。例えば、『Vier Lieder(4つの歌) Op. 27, TrV 170』の幸福感にあふれた第4曲「Morgen(明日)」や、『Vier letzte Lieder(4つの最後の歌)TrV 296』の辞世の句ともいえる第4曲「Im Abendrot(夕映えの中で)」は、とりわけ聴く者の胸を打つ。一方でこのアルバムにおける重要な発見は、愛と喪失をテーマにしたハンス・プフイッツナーの知られざる歌曲といえる。豊かな表現力と魅力的なメロディを持つプフイッツナーによる目くるめく楽曲「Stimme der Sehnsucht(憧れの声)」は、精神的な苦悩を描いた不安げなポートレイトだ。アルバム全体を通して、チョ・ソンジンのピアノによる伴奏も素晴らしいもので、決して支配的にならず、オーケストラのような深みを持っている。
作曲者
バリトン
ピアノ