

トーマ・バンガルテルにとって“ダンス”は、幼い頃からずっと生涯の友のような存在であり続けている。フランスのミュージシャン/作曲家/プロデューサー/DJであり、2021年に解散した世界的ハウスミュージックデュオ、ダフト・パンクの一人として著名な彼は、バレエダンサーである母親から芸術形式を学び、ソングライターの父親が作曲したディスコヒットを聴いて育った。トーマ少年のピアノの先生はオペラ座のリハーサルピアニストだったのだが、バレエ教室での演奏を本業としていた。「子ども時代の私は、ダンス教室や振付師たち、そしてダンサーたちに囲まれていました」と、彼はApple Music RadioのAlexis Ffrenchに語る。つまり、バンガルテルが振付師のAngelin PreljoçajからOpéra National de Bordeauxで上演する全幕もののバレエのための音楽を委嘱された時、“イエス”と答えたのも、まったく不思議なことではないのだ。 本作は、2022年の7月、ボルドーのGrand Théâtreにおいて、Romain Dumasが指揮するOrchestre National Bordeaux Aquitaineの演奏で行われたバンガルテルのバレエ音楽『Mythologies』の初演をライブ録音したもの。『Mythologies』は、彼の創造的飛躍を示す作品となっている。このバレエは、古代と現代の神話を呼び起こし、私たちの集団的想像力に深く根差した、宗教的儀式の不変的な本質と永続的な必然性を探求するものだ。バンガルテルにとってオーケストラのための楽曲を書くのは初めてだったが、その一方では、ダンサーたちと仕事をすることに、まるでふるさとに帰ってきたかのような感覚を抱いたという。「これはまさに、とても親しみを覚える個人的なプロジェクトで、その過程でふるさとに戻ることができました」と彼は語る。「私はオーケストラのためのスコアや作曲方法を、とても映画的な視点で見ていると思います。というのも私は映画が大好きで、私とクラシックの作曲家を結びつけているのが、映画で使われているクラシックの楽曲だからです」 バンガルテルは、まず、リズミカルなリフレインを主体とする音楽と、心に響く叙情性を特徴とする曲のバランスを取りながら、23の楽章の草稿を用意した。「思えばコントラストという概念がずっと好きでした」と彼は振り返る。「そして、叙情的な形式と、よりミニマルで反復的な形式の両方を包含するというアイデアを持っていたことは、間違いありません。そもそもこれらの要素が対立するものだとも思っていませんし、それらをバレエ音楽の構造の中で共存させるというアイデアが気に入ったのです」 彼はベルリオーズやリムスキー=コルサコフのオーケストレーションについての定番の解説書を読みあさって、自身のバレエ音楽のスコアリングに向けての準備をした。「従うべきルールと破るべきルールの感覚をつかみたかったのです」とバンガルテルは言う。ラヴェルがオーケストレーションを施したムソルグスキーの『展覧会の絵』もいい手本になった。「この作品は私に、とても初歩的かつ本能的なレベルでオーケストレーションを試みる機会を与えてくれました。そこで私はとにかく実験をして、いろいろなテクスチャを試し、クラシカルな形式も、伝統的でない形式も使って、作曲を進めていきました」 バンガルテルにとって『Mythologies』を書くにあたってのインスピレーションとなったものは何だったのだろうか。「その質問に答えるのは難しいです。というのは、私のプロセスが非常に本能的なものだからです」と彼は言う。「このプロジェクトは、私にとって初めてのオーケストレーションの冒険でもありました。実際、これまでにもオーケストラと仕事をする機会がありましたし、映画音楽やダフト・パンクの音楽を作るときにも、非常に優秀なアレンジャーやオーケストレーターと共同作業をしました。このような数十年間の音楽活動を経て、私と作曲の関係を再構築し、私とテクノロジーとの関係を再評価する機会を得られたことに、感謝するばかりです」 長い間、エレクトロニクスを駆使した表現方法を取ってきたバンガルテルにとって、アコースティック楽器のためだけに作曲することは新鮮な経験となった。「とても落ち着きました」と彼は回想する。「ロックダウンという状況との相性も良かったようです。このプロセスはとてもありがたいものでした」。情熱的な弦楽による瞑想曲であり、管楽器と打楽器によって繊細に色付けされた10曲目の「L'Accouchement」からは、このバレエ音楽を貫く本質的なスピリットが感じられる。「この曲は緊張と解放というテーマや、曲の終わりに向かって平和な世界に進んでいくというアイデアを凝縮したものだと思います。“L'Accouchement”はフランス語で出産の苦労を意味する言葉なのですが、創造の苦悩のメタファーでもあるかもしれませんね。とはいえ私は作曲のプロセスを説明するのはあまり好きではなく、むしろ音楽そのものに語らせたいのです」
2023年4月7日 23トラック、1時間 28分 ℗ A Warner Classics/Erato release, 2023 Alberts & Gothmaan under exclusive licence to Parlophone Records Ltd
レコードレーベル
Warner Classicsプロダクション
- Ivan Martinプロデューサー
- Florian Lagattaプロデューサー
- Iker Olabeプロデューサー
- トーマ・バンガルテルプロデューサー
- Ivan Martin編集エンジニア
- Florian Lagattaエンジニア、ミキシングエンジニア、マスタリングエンジニア
- Iker Olabeエンジニア、ミキシングエンジニア、マスタリングエンジニア