ポーランド出身の世界的テノール歌手ピョートル・ベツァーラが、歌曲の伴奏者として最も有名なピアニストの一人であるヘルムート・ドイチュと組んで、ロシア歌曲を録音した。2人が愛してやまないこれらのレパートリーは、もっと広く知られるべき楽曲だといえるだろう。すべての収録曲は、チャイコフスキーとラフマニノフがまれに見るメロディの達人であることを、改めて強く印象付けるものだ。ベツァーラとドイチュの演奏は、私たちを帝政ロシアの時代のサロンコンサートへといざなってくれる。ラフマニノフの美しい「Lilacs(リラの花)」で深みのある歌声によってくつろいだ雰囲気を醸し出し、同じ『12 Romances, Op. 21』からの「They Answered」では美しい響きの高音域とストーリーテラーとしての才能を披露している。また、チャイコフスキーの人気曲「None but the Lonely Heart(ただ憧れを知る者だけが)」と胸を打つ「Again, As Before, Alone」では、とりわけ歌詞の世界を繊細に描き出す表現力が輝きを見せる。