2016年から2022年にかけて、世界の各都市でヨハン・ゼバスティアン・バッハの主要な鍵盤作品のすべてを演奏するという壮大なプロジェクト“バッハ・オデッセイ”を成し遂げたカナダ出身の名ピアニスト、アンジェラ・ヒューイットは、録音においても、バッハの作品や、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの全曲録音などで、高い評価を得てきた。本作は、そんな彼女によるモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲録音第1弾。収録したのは、“デュルニッツ・ソナタ”(第1番から第6番)と第7番だ。これらのモーツァルトの初期のピアノ・ソナタを、刺激や面白みに欠けるものとしてやゆする向きもあるが、ヒューイットの見方は違う。「私は作曲家の若い頃の作品が大好きなのです。ユニークな才能が急速に発展していくのを見るのは実に興味深いこと。モーツァルトのピアノ・ソナタを脇に置くのは、まったくばかげています。綿密に研究すれば、私たちに限りない喜びと驚きを与えてくれるのです」。少年時代、イタリアに長く滞在したモーツァルトは、かの地でベルカントの手法を吸収した。その後に書かれたこれらのソナタは、演奏者に歌うように奏でること、物語を語るように表現することを求めている。ヒューイットによるピュアな音色と繊細なアーティキュレーションが際立つ演奏は、そんなモーツァルトの思いの本質に迫りながら、これらの楽曲の見過ごされていた魅力に光を当て、新鮮な感動を呼び起こす。
作曲者
ピアノ