『French Suite(フランス組曲)』(タイトルはバッハ自身が付けたものではない)は、1720年代の初頭から半ばにかけて書かれたもので、その時代の最先端をいくファッショナブルなスタイルの楽曲だった。テヘラン生まれワシントン育ちのピアニスト、マハン・エスファハニは、当時流行していた軽快さと優雅さを強調しつつ、六つの組曲を構成する多くの短い舞曲から無限の多様性を引き出している。エスファハニのパフォーマンスは、リスナーに身近さを感じさせるものだ。本作におけるとりわけ新鮮な取り組みは、最も小さくて繊細な鍵盤楽器であるクラヴィコードの使用(『French Suite』の『No. 1』『No. 2』『No. 3』及び『BWV 819』と『BWV 818』において)なのだが、そのささやくような音色を捉えるためにマイクを極端に近づけて録音しているため、私たちは彼と一緒にその場にいるような感覚になれる。一方、『BWV 822』及び『French Suite』の『No. 4』『No. 5』『No. 6』においてはチェンバロが使用されており、特に『No. 4』の「Allemande」では、この楽器の豊かな響きが存分に生かされている。また、あまり知られていない『BWV 819』『BWV 822』『BWV 818』の三つの組曲も、一連の『French Suite』同様に魅力的だ。
作曲者
チェンバロ