イギリス出身の名指揮者マーク・エルダーは、母国の伝統的な音楽の良き解釈者として世界に広く認知されており、中でもエドワード・エルガーの演奏においてとりわけ高い評価を受けている。そんなエルダーは、イギリスの老舗オーケストラの一つであるハレ管弦楽団の音楽監督を、2000年から2023年までの長きにわたって務めた。本作は、この偉大なマエストロが同オーケストラの音楽監督として録音した最後の作品である。実際のところ、両者が共に音を奏でたおよそ四半世紀の間に楽団員のほとんどは入れ替わっているのだが、それでもここでの演奏は一朝一夕には決して築けない深い絆を感じさせる。選ばれたのは、エルダーが愛してやまないイギリス音楽史上きっての大作曲家エルガーの作品だ。『交響曲第1番』の序奏が持つ雄大で栄光に満ちた趣は、指揮者とオーケストラが互いをたたえ合うかのようでもあり、力強くドラマチックなアレグロでは、優雅さと激しさのバランスが見事に保たれている。そして、終結部はゆっくりと奏でられる序奏の主題と共に、次第にノスタルジックな雰囲気に包まれていく。またアルバムの最後には、Apple Music限定のトラックとして、現代イギリスの作曲家コリン・マシューズがエルダーとハレ管弦楽団のためにアレンジしたエルガーの合唱曲、「眠る王子」の管弦楽版が収録されている。慈しむように奏でられる旋律は、美しく、切ない。
作曲者
オーケストラ
指揮者