Thomas de Hartmann Rediscovered

ジョシュア・ベルの独奏とダリア・スタセフスカの指揮によるヴァイオリン協奏曲や、マット・ハイモヴィッツの独奏とデニス・ラッセル・デイヴィスの指揮によるチェロ協奏曲を収録しているというだけで、このアルバムが十分に魅力的なものであることは予想できるだろう。しかし、本作の主役は楽曲そのものと作曲者のトーマス・デ・ハートマンである。ウクライナに生まれ、ロシアのアレンスキーやタネーエフの下で作曲を学んだハートマンの作品は、1930年代から1940年代にかけてロシア国内のみならずヨーロッパでも高く評価された。 本作で聴ける『Violin Concerto, Op.66』（1943年）と『Cello Concerto, Op.57』（1935年）も、まさにその時代に書かれたものだ。しかしハートマンの名前は、彼が亡くなった1956年ごろには口の端に上ることもなくなってしまった。一方、そんなハートマンの作品の復興に長年取り組んでいる人々がいる。ザ・トーマス・デ・ハートマン・プロジェクトだ。同プロジェクトのメンバーから協奏曲の楽譜を託されたヴァイオリニストのジョシュア・ベルは、この情感あふれる楽曲に衝撃を受けると同時に、これほどまでに魅力的な作品がすっかり忘れ去られていたという事実に驚愕（きょうがく）したという。このようなベルの反応に象徴される通り、『Violin Concerto』も、そして『Cello Concerto』も、親しみやすく美しい旋律に彩られ、ソロ楽器の繊細な技巧が絶妙に生かされ、豊かな詩情が胸を打つ、見事な作品となっている。ベルとハイモヴィッツの演奏は、これらの知られざる名曲との出会いに感謝する気持ちや、それを奏でることの喜び、そして、楽曲と作曲者に対する愛情と敬意にあふれたものだ。このアルバムが、トーマス・デ・ハートマンの存在と音楽を、彼の全盛期よりもはるかに広く知らしめるきっかけになる可能性は十分にある。