フランスの名ピアニスト、ヴァネッサ・ワーグナーが、ミニマリズムの巨匠であるフィリップ・グラスのエチュードに豊かな情感をもたらす。ワーグナーは古典派のモーツァルトから、ロマン派のメンデルスゾーン、リスト、チャイコフスキー、母国のドビュッシーやラヴェル、さらにはアルヴォ・ペルトやメレディス・モンク、ニコ・ミューリーといった現代の作曲家たちの作品まで、幅広い時代やジャンルの楽曲をレパートリーとしている。そんな彼女が本作で挑んだのは、現代アメリカを代表する作曲家の一人であるグラスによるエチュードの全曲録音だ。 ピアニストでもあるグラスは、自身の腕をさらに磨くべく1990年代の半ばに一連のエチュードの作曲を始めた。2012年までに書き上げられた全20曲のエチュードは、独特の和声進行やアルペジオなど、一聴して彼の作品と分かる特徴を備えている一方、子守歌のように静かなものからエネルギーにあふれたものまで、バリエーションに富んでいる。そして、これらの曲を奏でるワーグナーのアプローチは、強弱や緩急のコントラストを自在に操りながら壮大な物語を描くかのような、実に表情豊かなものとなっている。 例えば「No. 1」におけるドラマチックな表現や「No. 3」の力強さは、ベートーヴェンを想起させる。また「No. 17」における波打つようなアルペジオは、情熱的なショパンの音楽を思わせる。これは、ミニマリストによるエチュードという言葉から安易にイメージしてしまうものをはるかに超えた、激しく心を揺さぶるパフォーマンスに満ちたアルバムだ。
作曲者
ピアノ
プリペアドピアノ