すべての音符をくっきりと際立たせる高い技術を背景にした表情豊かな演奏で、ピアノ曲を聴くことの喜びを改めて教えてくれる。松田華音は6歳でモスクワに渡り、名門グネーシン音楽学校でロシア伝統のピアニズムを身に付けた。2004年には7歳にしてエドヴァルド・グリーグ国際ピアノ・コンクールでグランプリを受賞。2014年には18歳の若さでドイツ・グラモフォンからデビューを果たしている。そんな彼女にとって、チャイコフスキーがアマチュアが弾くことを念頭に置いて書いたピアノ曲集『四季』は、技術的課題となる部分がほとんど見当たらない作品だろう。しかし、単に季節ごとの風物を描写するだけではなく、感情の機微をつぶさに表現したこの作品の本質を引き出すのは容易なことではない。松田のピアノは、「2月 〈謝肉祭〉」で妖精が鍵盤の上を飛び回っているかのような軽やかさで心を浮き立たせたかと思えば、続く「3月 〈ひばりの歌〉」では詩情あふれる演奏で胸に深く染み入る。また、フランツ・リストによる『「巡礼の年」第2年補遺 S. 162、“ヴェネツィアとナポリ”』の第1曲「ゴンドラの歌」での彼女は、細かい音符から成る速いパッセージをきらきらした音色で奏で、聴く者を夢心地にさせる。一方、2025年8月に92歳で亡くなったロシアの作曲家ロディオン・シチェドリンによるバレエ音楽からの4曲『4 Pieces from the Humpbacked Horse』での松田は、ストーリーテラーとしての才能を遺憾なく発揮している。