本作で聴けるのは、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーによる最後の『第九』指揮を収めたライブ音源だ。1954年のルツェルン音楽祭でこの激烈なパフォーマンスを披露した3か月後、彼は天に召されている。まずオープニングから最終楽章に至るまで全てを出し切るように奏でられる管楽器とチェロに耳を傾けよう。そしてフルトヴェングラーがオーケストラを次第に騒然としたクライマックスへと導いていく様に酔いしれてほしい。さらに圧倒的なバスバリトンを響かせる、オットー・エーデルマンをはじめとする独唱者たちとルツェルン祝祭合唱団が、雷鳴のようにとどろきわたる声でシラーの『歓喜の歌』の詞を熱く叫ぶのも聴きどころだ。一方、ブルックナーを得意としたフルトヴェングラーらしくどこまでも美しく奏でられるアダージョが、主役の座を奪うほどの素晴らしさであることも議論の余地がないところだ。これまでに聴くことができた『第九』の中で、最も幻想的なパフォーマンスと言えるだろう。
作曲者
ソプラノ
テノール
指揮者
オーケストラ