トーマス・ダンフォードのリュートは、ゆったりとした曲を穏やかに奏でるときはもとより、速い曲を力強く奏でるときにも、繊細さと、真の温かみ、そして包み込むような優しさを失わない。例えばバッハの『Cello Suite No. 1(無伴奏チェロ組曲第1番)』も、ダンフォードによって奏でられると、気高さ以上に親密さが前面に表現され、リスナーにチェロの場合とは異なる物語をイメージさせてくれる。ダンフォードは9歳でリュートを始め、パリ地方音楽院で学んだ後、バーゼルのスコラカントルムでさらなる研さんを積んだ。数々のコンクールを制した彼は、ニューヨークのカーネギーホールやロンドンのウィグモアホールをはじめとする一流の会場の舞台に立ち、日本を含む世界各地で演奏を披露。レコーディングでは、独奏、擦弦楽器奏者や鍵盤楽器奏者とのデュオ、歌手との共演など、さまざまな形式で、古い記憶を呼び起こすかのような魅惑的で夢見心地のリュートの音色を存分に聴かせてくれている。