エニグマ変奏曲
エドワード・エルガーの国際的な知名度を一気に上げることになったこの名作は、あまり大きな反響を得ることができていなかった一連の大規模な合唱作品からの、ちょっとした逃避のようにして書かれたものだった。1898年のある日、ヴァイオリンのレッスンを終えて帰宅したエルガーが、思い付いたメロディを何気なくピアノで弾いていると、妻のアリスが「エドワード、その曲いいわね」と言う。そこで、エルガーは、何人かの友人たちを思い浮かべ、“あの人ならこの旋律をこんな風に弾くだろう”という想像を膨らませていった。その結果として生まれたのが、『エニグマ変奏曲』こと『管弦楽のための独創主題による変奏曲』であり、作曲家はこの作品を“ここに描かれた友人たち”に捧げている。冒頭の主題に続く、穏やかでいながらリッチなテクスチャーを持つ第1変奏「C.A.E.」は、アリスを描いたものであり、木管による対旋律は、エルガーが帰宅した時に吹く口笛を模したものだ。その後には、エルガーの友人たちが代わる代わる登場する。劇団員の「R.B.T.」(リチャード・バクスター・タウンゼントのイニシャル)のような際立ったキャラクターの者もいれば、「Dorabella(ドラベッラ)」のような優しい魂の持ち主もいる。他に、エルガーにとって最も親愛なる人たちも描かれている。例えば、「Nimrod(ニムロッド)」は、いつも温かくサポートしてくれる音楽出版社のアウグスト・イェーガーにエルガーが付けたニックネームである。また、「G.R.S」は、エルガーの師であるオルガニスト、ジョージ・ロバートソン・シンクレアのイニシャルだが、実のところ、この曲の本当の主人公はシンクレアが飼っていたブルドッグのダンである。メンデルスゾーンの序曲「Meeresstille und glückliche Fahrt(静かな海と楽しい航海)」からの引用を含む「***」の対象は隠されていたが、エルガーは最終的に当時まさに航海中だったというレディ・メアリー・ライゴンの肖像画だとした。しかし、その一方では、1884年にエルガーとの婚約が破棄された後、ニュージーランドに渡ったかつてのフィアンセ、ヘレン・ウィーヴァーをイメージしたものであるとする説も有力である。そして、エドワード・エルガーによるセルフポートレートであるフィナーレの「E.D.U.」は、実に力強く、壮大で、活気にあふれている。
