ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調
フランツ・リストの『ピアノ協奏曲第1番』は、着想から初演までに非常に長い年月を要した作品だ。リストは1835年に初稿を書き、1839年に改訂版をまとめ上げたが、公の場で演奏するには至らなかった。その後、時は流れ、1850年代に入ってからようやく作品を完成させた彼は、1855年に晴れて同コンチェルトを初演するのだが、1857年に出版する前に、さらなる改訂を加えている。いわば、『ピアノ協奏曲第1番』は、若き日のリストの楽曲を、経験を積み、腕を上げ、成熟した作曲家となったリストが磨き直した作品なのである。その結果、このコンチェルトは、20分足らずという演奏時間を熱烈な詩情で満たし、また、アスリートのような激しい動きを伴うパフォーマンスを演奏家から引き出すという、ピアニストの名人芸のショーケースとなっており、さらには、構造上の斬新さと、表現の革新性をも兼ね備えた楽曲として完成されたのだ。調性は、ベートーヴェンの“皇帝”こと『ピアノ協奏曲第5番』と同じ変ホ長調であり、『第1番』がこの偉大な先達のコンチェルトから大きな影響を受けていることは明らかだ。全体の構造は、四つの短いセクションがリンクして一つの協奏曲を成すというもので、それらは主題で結び付けられており、冒頭部分以外の三つのセクションの間には切れ目が無い。堂々として力感にあふれた「アレグロ・マエストーソ」に続く「クワジ・アダージョ」(これも“皇帝”の緩徐楽章と同じロ長調)は、ほとんどオペラのような趣で、レチタティーヴォのようなパッセージへと続く。そこからスケルツォ風の「アレグレット・ヴィヴァーチェ」に直結すると、リストは非常に独創的かつ印象的なタッチでトライアングルを響かせる。そして、きらびやかなピアノとともに行進曲風の音楽が次第に速度を上げ、協奏曲をスリリングな結末へと導いて行く。