4つの即興曲

D 899、Op.  90

『D. 899』(20世紀前半の音楽学者オットー・エーリヒ・ドイッチュがシューベルトの作品目録を作成した時に付した番号。ドイッチュ番号という。シューベルトの作品には一般的にこの番号が用いられる)の最初の2曲は、1827年にトビアス・ハスリンガーが営む音楽出版社が出版したもので、「即興曲」というタイトルも彼が思い付いたものだった。商売上手なハスリンガーは、当時大ヒットしていたボヘミアの作曲家ヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェクによるソロピアノのための即興曲にあやかって、このタイトルを付けたのだ。第3曲と第4曲が出版されたのはその30年後のことで、あろうことか当時の楽譜では第3曲の調性が出版社の意向でオリジナルの変ト長調からト長調に変えられていた(1828年に亡くなっていたシューベルトは、このことを知る由もなかった)。『D. 899』はドラマチックな葬送行進曲で幕を開けるのだが、その足取りは絶望と諦めの色を帯びている。後に続く三つの小品は、すべて優しく波打つような曲調なのだが、いずれも苦悶(くもん)するような短調の中間部を抱えている。第3曲は、涙のベールに包まれてほほ笑んでいる人の姿を思わせるような言葉のない歌であり、第4曲の冒頭で、緩やかな傾斜を流れる小さな滝を描くかのような16分音符による音形が短調から長調へと絶妙に変化する様も実に印象的だ。

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