クリスマス・オラトリオ
バッハの『クリスマス・オラトリオ』(1734年)は、ルーテル教会でクリスマスから顕現節までに行われる6回の礼拝で演奏するべく作曲された、6部から成るカンタータ集だ。この大作のためにバッハは64もの曲を書かなければならなかったが、そのうちの18曲は、例えばザクセン選帝侯夫妻の誕生日や記念日といった特別な機会のために、自身が作曲した既存の世俗曲を再利用するという効率の良い手法で作られており、同時にバッハはこれらのとりわけ優れた声楽曲にさらに高い次元の意味を与えることにも成功している。歌詞は『マタイ受難曲』の台本も手掛けたピカンダーことクリスティアン・フリードリヒ・ヘンリーツィが、聖書の詩句やスピリチュアルなテキストから作成した。『クリスマス・オラトリオ』は、1734年の12月25日から1735年の1月6日にかけての祝日と日曜日に、ライプツィヒの聖トーマス教会と聖ニコライ教会で六つの個々のカンタータとして初演された。オープニングを飾るのはトランペットとケトルドラムの華やかなサウンドだ。王権を象徴するこれらの楽器が、ここでは王の中の王であるキリストの降誕を告げるために使われ、この舞曲的な序奏に続いて高揚感あふれる賛美の合唱が始まる。聖ルカと聖マタイの福音書から引用された降誕物語はテノールの独唱によるレチタティーヴォで語られ、独唱によるアリアとコラールは、聖なる救い主が極貧の状態でこの世に出現したことに思いをはせるためのひとときとなっている。カンタータはそれぞれに、羊飼いへの天使のお告げ、エジプトへの逃避、東方三博士の礼拝といった、キリストの幼少期の出来事を描いていく。この作品におけるバッハの音楽は、既存の楽曲を用いたものであれ、新たに作曲されたものであれ、キリストの降誕の奇跡に対する深い驚きや、無垢(むく)な子どもに対する無条件の愛と優しさ、そしてこの世の煩わしさを超越した喜びを表現したものとなっている。