ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
Op. 35、TH59
チャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』は、優美な旋律と心揺さぶる情熱を兼ね備えた作品である。作曲は1878年にレマン湖のほとりのクラランで行われた。チャイコフスキーは悲惨な結婚生活によって衰弱した心と体の回復のためにロシアを逃れ、スイスの小さな村で過ごしていたのだ。ここに教え子のヴァイオリニスト、Iosif Kotekが、エドゥアール・ラロによる協奏曲形式の作品『スペイン交響曲』(1874年作曲)の楽譜を携えてやってくる。Kotekと共にこの曲を奏でたチャイコフスキーは、その新鮮さと快活さに心を奪われ、同じような魅力を持つコンチェルトをこの教え子のために書くことにした。第1楽章ではオーケストラによる穏やかな序奏の後、二つの主題が提示される。第1主題は鋭い響きを持ち、続く第2主題はより官能的で、上昇しながら激しさを増していく。カデンツァ(無伴奏のヴァイオリンによる)はそれら二つの主題を合成し、複雑化したものとなっている。第2楽章「カンツォネッタ」では、独奏ヴァイオリンが、シンプルでいながら叙情性にあふれた歌曲風の主題を、最初は音量を抑えたオーケストラに乗せて、次にフルートとクラリネットとのデュエットで、繊細な装飾を伴いつつ奏でていく。ブレイクなしで続くフィナーレは最もロシア的な響きを持つ楽章となっており、ソリストをフィドラーに見立てたチャイコフスキーが、ドライブ感にあふれた舞曲を展開する。同じく民族音楽的な性格を持つ第2主題は初めのうちゆったりとしているが、曲は再び勢いづき、熱狂的なコーダへと向かっていく。