トマス・タリスの主題による幻想曲
ヴォーン・ウィリアムズの出世作「トマス・タリスの主題による幻想曲」は、1910年にグロスター大聖堂で行われたスリー・クワイヤーズ・フェスティバルにおいて、作曲者自身の指揮で初演された。この作品は、弦楽合奏のために書かれた15分ほどの楽曲であり、泰然とした雰囲気の中に力強さと偉大な精神を含んでいる。アンサンブルは、大聖堂の内部の響きを生かすべく編成されており、その配置もユニークだ。前方に弦楽四重奏が置かれ、弦楽オーケストラがそれを囲み、後方には小さな編成のアンサンブルがある。そして、作曲者は、小編成のアンサンブルはできるだけ離れた場所に置かれるのが望ましいとしている。その目的は、弦楽合奏によってオルガンのような響きを得ることである。ほの暗く表情豊かな主題は、16世紀イギリスの作曲家トマス・タリスが聖書にある詩篇2篇に付けた曲であり、教会音楽の研究を行っていたヴォーン・ウィリアムズが、1906年に出版した『イギリス賛美歌集』を編さんしている時に発見したものだ。短い導入部の後、チェロによって提示される主題は、弦楽アンサンブルに引き継がれる。次に、一連の“ファンタジア”のパッセージが現れ、それぞれが主題のメロディやハーモニーの断片を受け取り、それらを即興のように展開させていく。緻密に構築されたアンサンブルの中で、音楽そのものが自由に浮遊しているかのような印象を与えるこのプロセスは、作曲家が並外れた手腕を持っていることを証明している。そして、最後にはカルテットの第1ヴァイオリンが独奏ヴィオラのサポートを受けながら主題を奏で、果てしなく広がる大地を思わせる壮大なエンディングへと音楽を導いていく。
