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- 2016、78トラック、2時間 45分
ドン・ジョヴァンニ
女性の部屋に忍び込んだものの騒がれてしまい、逃げるところを彼女の父親に見とがめられて彼を殺してしてしまった放蕩(ほうとう)貴族、ドン・ジョヴァンニは、罪を免れようとするが失敗する。モーツァルトと台本作家のダ・ポンテが初めて共作した『フィガロの結婚』(1786年)は、ウィーンでの初演ではまずまずの評判を得るにとどまったが、プラハではすぐに大成功となった。これを受けて、モーツァルトの下に、ドン・ファンにちなんださまざまな作品を長い間愛してきたこの街のために、新たなオペラを書き下ろしてほしいという依頼が届いたのだ。こうして生まれたのが『ドン・ジョヴァンニ』(1787年)である。全体に前作よりもダークなものとなったこの作品は、従来の喜歌劇とは違う「ドラマ・ジョコーソ」、つまり、人間の本質と深く結び付いた喜劇性を有する晴れやかなドラマであり、伝統的な4幕の構成からも解き放たれ、わずかに2幕から成っている。その結果、独立したアリアが連続した音楽のシーケンスに溶け込んでいくような、スムーズな流れが生まれた。物語は、最初の小節からフィナーレまで、止めどなく、当然のように目まぐるしく展開される。情感の豊かさという点でシェイクスピア的ともいえるこの作品は、農民であるツェルリーナとマゼットの世界と、特権階級であるドンナ・アンナとドン・オッターヴィオの世界がぶつかり合う、ユーモアと心理劇を融合したオペラなのだ。モーツァルトの音楽言語は、この通常ならざる状況を表現するために進化を遂げ、大胆な和声の書法とリズムの表現でオーディエンスを挑発する。そしてそのスコアは、暗鬱(あんうつ)な「序曲」から、ドンナ・アンナの嵐のような「Or sai chi l'onore」、ドン・オッターヴィオによる「Dalla sua pace」とドン・ジョヴァンニの魅惑的な「Serenade」、レポレッロの早口でコミカルな「Catalogue Aria」など、コントラストにあふれ、実に多彩だ。