ニコロ・パガニーニのテクニックは、悪魔に魂を売り渡した代償として得たものだと信じる者が多く現れるほど、革新的で驚異的なものだった。また、スキャンダラスな恋愛、ギャンブルへの依存、行き過ぎとも思える奇抜なパフォーマンス、金銭への強い執着といった行動やキャラクターも、そのような噂に拍車をかけたのだろう。しかし、それらのネガティブな情報や印象にもかかわらず、パガニーニの演奏家、作曲家としての圧倒的な才能は時代を超えて人々を魅了してきた。そんな彼のオーケストレーションは、自身の独奏をできる限り目立たせるべく、隙間だらけの構造にしてあることで知られている。もちろん本作に収録された『Violin Concerto No. 1』も例外ではなく、ソリストの逃げ場は見当たらない。しかし、並外れた力量を持つヒラリー・ハーンにはそのような場所は必要ないようだ。ハーンの確固たる技術をもってすれば、パガニーニが仕掛けた極端にトリッキーな走句も、複数の弦を同時に弾いて和音を出すパッセージも、軽々と越えられるハードルでしかないのだ。そしてカップリングされた『Violin Concerto No. 8』の作者であるLouis Spohrもまた卓越したバイオリニストであり、このコンチェルトも難曲とされるが、ここでもハーンは優れたテクニックに裏打ちされた歌心たっぷりの演奏でリスナーの心をつかむ。そんな彼女のパフォーマンスを力強さと重厚感をもって支える指揮者、大植英次とスウェーデン放送交響楽団の演奏も見事なものだ。さらに、ボーナストラックでは、ハーンがこれらの協奏曲やアルバムの制作について語るインタビューも聴ける。
作曲者
指揮者
ヴァイオリン
オーケストラ、交響楽団