夫婦でピアニスト/作曲家として活躍したロベルト・シューマンとクララ・シューマンの愛の言葉は音楽だった。2人は時折互いのメロディを美しく装飾するなど、作品の中で秘密の暗号を使ってコミュニケーションをとっていたのだ。後にブラームスは、シューマン夫妻の楽曲をコンサートで演奏し、自分の作品を書くときにも、しばしば夫妻の曲を参考にした。ピアニストのベンジャミン・グローヴナーは、これらの作曲家たちを橋渡しするような楽曲をフィーチャーしたアルバム『Schumann & Brahms』で、3人の多様なつながりの本質に迫っている。 「クララ・ヴィークとロベルト・シューマンが結婚する前の1830年代後半からスタートして、ブラームスが晩年の1890年代に書いた作品に至ります」とグローヴナーは言う。「『Kreisleriana(クライスレリアーナ)』は、ロベルト・シューマンの最も完成度の高い、感情豊かな作品の一つです。実はこの作品は1838年、彼がまだ28歳の時に作曲されています。一方、ブラームスの『Intermezzi Op. 117(3つの間奏曲)』は1892年に書かれたもので、彼が1897年に亡くなる少し前の作品です。若いロベルト・シューマンと晩年のブラームスの組み合わせは面白いと思いました」 収録曲をつなぐ要素はいくつもある。「クララによる『Variations on a Theme by Robert Schumann, Op. 20』は、シューマン夫妻とブラームスが出会ったのと同じ1853年に書かれています」とグローヴナーは説明する。「クララが具現化したように、相互のつながりがたくさんあるのです。同年代の最も偉大なピアニストの一人だった彼女は、ある意味でロベルトとブラームスの両方の師匠でもでありました」 ここからはベンジャミン・グローヴナーが、これら3人の偉大な作曲家をたたえるアルバムの収録曲を1曲ずつ解説してくれる。 『Kreisleriana(クライスレリアーナ)』(ロベルト・シューマン) ロベルト・シューマンは、作家/画家/音楽家のE.T.A.ホフマンが生み出した創造上のキャラクターである粗野でウィットに富んだバッハ信者の宮廷楽長、ヨハネス・クライスラーにインスピレーションを受けてこの作品を書きました。『Kreisleriana』は素晴らしい作品で、さまざまな感情を宿しています。自身を描いたものでもあり、クララを象徴したものでもあるので、ロベルトはこれをクララに献呈しようとしたのですが、彼女が厳格な父親の猛反対を恐れたため、最終的にはショパンに献呈されました。第2曲は最も充実した曲で、非常に叙情的です。そして第3曲、第5曲、第8曲はより熱狂的です。 『3 Romanzen, Op.28(3つのロマンス Op.28)』: No. 2(ロベルト・シューマン) ロベルト・シューマンによる『3 Romanzen, Op.28』の第2曲はクララが特に気に入っていた曲で、右手と左手の親指を通って広がるメロディは、とても優しいデュエットのように感じられます。ロベルトはクララのリクエストに応じてこの作品をクララに献呈しましたが、自分では彼女ほどにはこの曲を評価していませんでした。これは非常に特別な曲で、クララが1896年に亡くなる少し前に彼女のために演奏された曲の中にもありました」 「Blumenstück(花の曲)」(ロベルト・シューマン) クララを含む音楽仲間たちは、ロベルトに、より多くの人々にアピールできるような、短くて叙情的な曲を書くように勧めました。絡み合う二つの主題をベースにした「Blumenstück(花の曲)」は、ウィーンのアマチュアピアニスト(主に女性)を引きつけようとしたシューマンの試みの一例です。より広く知られている「Arabeske」と同じ頃の1839年に作曲されています。私はこの曲の構造がとても興味深いと思っていて、全体的に謎めいた印象を受けます。 『Piano Sonata No. 3(ピアノ・ソナタ第3番)』: III. Quasi variazioni(ロベルト・シューマン) ロベルト・シューマンは、クララの主題を基に、『Piano Sonata No. 3』の独立した楽章である「Quasi variazioni」を作曲しました。そのオリジナルのメロディをクララがいつ、どこで書いたのかはわかっていないのですが、主題から発せられる下降線は、ロベルトの作品の多くに見られる典型的なクララによるモチーフです。このダークでエモーショナルな音楽を、私はとても力強いものだと思っています。 「Abendlied(夕べの歌)」(ロベルト・シューマン) この美しい曲は1849年に書かれたピアノ連弾曲集にのうちの1曲で、その後さまざまな楽器のために編曲されています。祈りのような、とても感動的な曲です。この編曲版は私が書いたものですが、4手用のものを少し変えるだけで2手でも弾けるので、大きな変更は加えませんでした。 『Variations on a Theme by Robert Schumann』 クララとブラームスは、ロベルト・シューマンの「5つの音楽帳」のうちの1曲目にある同じ主題を使ってそれぞれの変奏曲を書いているのですが、その方向性はまったく違うものです。クララは非常に微妙な和声の揺らぎを使っていて、それが痛切な感覚を生み出しています。ブラームスのものほど革新的ではないかもしれませんが、これらの変奏曲には、色使いから大胆なオクターブの使い方、穏やかなメロディまで、クララがピアノを深く理解していることが、よく表れているのです。 『3 Intermezzi(3つの間奏曲)』 これはブラームスの晩年の作品の一つで、彼は「私の苦悩の子守歌」と呼んでいました。第1曲はスコットランドのバラードの歌詞に合わせて書かれたもので、悲哀に満ちた美しい曲です。第2曲は両手で奏でられる、寄せては返す波のようなフレーズが印象的。そして第3曲は、ダークかつ啓発的な雰囲気を持つ曲となっています。73歳の時にこの作品を受け取ったクララは、「私の魂の中で音楽の生命が最後にもう一度呼び覚まされるのを感じる」と言ったのだそうです。彼女の人となりが感じられる言葉ですよね。
作曲者
ピアノ