このアルバム『Stella x Schubert』の中核を成すのは、シューベルトによるヴァイオリンとピアノのための楽曲『Fantasie in C Major, D. 934』だ。この曲についてアメリカのヴァイオリニストStella Chenは「純粋に大好きな芸術作品」と、Apple Musicに語る。Chenの“シューベルト愛”に火を付けたのは、彼女の大学の先生だったピアニストで音楽学者のロバート・レヴィンだった。「演奏分析の授業で彼がシューベルトの音楽について話してくれました」とChenは振り返る。「それがシューベルトへの深く、そして揺るぎない愛の始まりだったのです」『Fantasie』は、ヴァイオリニストの間ではよく知られている作品だが、音楽関係者の間で広く親しまれているかというとそれほどでもない。つまり、2019年にブリュッセルで開催されたエリザベート王妃国際音楽コンクールのヴァイオリン部門に出場した時、「多くの人の忠告に従わずに」この曲を選んだChenは、間違いなくリスクを負っていたことになる。しかし、彼女の大胆な決断は功を奏した。このコンクールでChenが優勝することができたのは、少なからず彼女が個人的にシューベルトの作品に深く共感していたことに起因している。「私が初めて『Fantasie』を学んだのは弱気になっていた時期で、この曲は私にとって気晴らしにも、救済者にもなってくれました」とChenは説明する。「私にとって、これ以上美しいメロディを思い付く作曲家はいません。それは、心の弱さを音楽に昇華する彼の並外れた能力によるところが大きいのです」Chenは、シューベルトの音楽について「無防備で、今にも壊れそうで、ほとんど別世界のもののようであり、生と死の瀬戸際で不安定に揺れている」と感じており、その例として、「『Fantasie』の第3楽章の魅惑的な冒頭部分」と、アルバムの最後を飾る「Ständchen(シューベルトのセレナーデ)」を挙げている。またChenは本作に『Rondo in B minor, D. 895』も収録した。彼女によるとこの曲は「急激にキャラクターがシフトし、つかの間の調性の脱線を含む、激しいジェットコースターのような曲」なのだそうだ。「演奏者もリスナーも息をのみ、ぐいぐい引き込まれて、気が付いたら曲が終わっていて驚かされます。精査の対象となることが分かっていながら、正直で無防備な作品を書くことは、とても美しい行為です。シューベルトがこのすべてを包み込むような音楽の贈り物を私たちに遺してくれたことは、とてもありがたいことだと思います」