モーツァルトの『Missa in C Minor(ミサ曲ハ短調)』を貫くのは深い信仰心だ。この作品は未完に終わったものだが、完成された楽章は、彼がキリスト教の教えに深く通じていたことと、独創的な音楽を生み出す並外れた才能の持ち主であったことを如実に物語っている。ジョン・バットが指揮したこのアルバムの演奏は、1783年に部分初演された時と同じように、16人編成の合唱団とピリオド楽器による室内オーケストラで行われているが、そこに、近年になってオランダの音楽学者Clemens Kemmeが補筆して完成させた楽章も加えられている。バットは、今日において一般的となっている編成よりも少人数で録音することを選んだ。彼は、モーツァルトがウィーンでヘンデルのオラトリオを演奏した時、おそらく16人の歌手を使い、二重唱のための楽曲で一つのパートに二つの声部を割り当てていたと指摘する。「これは、私たちの録音で採用した声楽隊の規模に近いものです」とバットはApple Music Classicalに語っている。「同じようにオーケストラの編成もウィーン時代のモーツァルトの合唱曲における標準的な編成に近いものにしており、ヴァイオリンは8人前後となっています」。柔軟性のあるダニーデン・コンソートの合唱団が生み出すサウンドは、透明感にあふれていると同時に、その規模からすると驚くほどの重量感を持っており、この音楽の特長である親密さをより際立たせている。バットいわく、“隠されていた本来の姿を浮かび上がらせるかのよう”なKemmeによる補筆版も、不可欠な存在だった。「現存する資料を基にして、できる限り完璧に仕上げることが重要でした。編曲家、音楽理論家、音楽学者としての彼の知識と経験は、とりわけこの時代の音楽について、ほとんど他の追随を許さないものです。Kemme は、『Sanctus』と『Benedictus』の部分的に遺されたフーガ形式の“Osanna”の声楽パートのように、欠落したパートを当時の音楽語法を生かした完璧とも言うべき手法で補筆し、それだけではなく、『Credo』の欠落した器楽パートや、驚くほど美しい『Et incarnatus est』の弦楽パートを提供してくれています」ソプラノのアンナ・デニスが絶好調のパフォーマンスを発揮する「Laudamus te」と、ルーシー・クロウの非常に優美な歌声が光る「Et incarnatus est」は、この作品においてとりわけ印象的なアリアとなっており、いずれの曲においても、精妙に紡ぎ上げられたオーケストラの響きが、その魅力を高めている。一方、二重合唱の「Cum sancto spiritu」とフーガの「Osanna」は喜びに満ちており、後者は、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハによるアルトと二重合唱のための印象深い楽曲「Heilig ist Gott(聖なるかな、万軍の主なる神)」に続く道を開いている。「このカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの作品は、当時最も有名な合唱曲の一つでした」 とバットは言う。「この曲の二重合唱のテクスチャが、『Missa in C Minor』の作曲においてモーツァルトに大きな影響を与えたことは明らかです」バットは、リスナーに対して、まずこのミサ曲のハイライトである「Et incarnatus est」を聴くことを促す。彼は「私たちはこの曲で、神聖なる表現における最も美味なるものが地上の文脈の中で具現化されるのを、ほとんど手で触れられるくらい身近に感じることができます」と言う。「それはまるで、モーツァルトが伝統的なカトリックの礼拝の神聖な要素をしっかりと捉え、その意義深さを一個人の観点から再表現しているかのようです」