2020年代の幕開けに構想された多くの音楽プロジェクトと同様に、パンデミックが起こったことがシューベルトの苦悩に満ちた連作歌曲集をレコーディングする原動力となった。2021年冬の真っただ中、コンサートが中止され、ロックダウンが実施される中、テノール歌手のシリル・デュボワとピアニストのAnne Le Bozecは、演奏とリハーサルを続ける方法を模索し始めた。コロナ禍の前に一緒に演奏するため準備していた『冬の旅』を録音しようというアイデアは、彼らの気持ちを高めるのに充分だった。 激しい孤独、失われた愛、死をテーマにしたシューベルトの歌曲を、半分改装されたLe Bozecの家で演奏することは、2人のアーティストに特別な響きをもたらしている。絶望で取り乱した「Erstarrung(氷結)」から、エンディングの「Der Leiermann(辻音楽師/ハーディ・ガーディ・マン)」の荒涼とした世界に至るまで、75分間にわたる濃密で豊かな音楽制作が実現した。デュボワの軽やかな声は表現力にあふれ生き生きとしており、Le Bozecが弾く1905年製のベヒシュタイン・ピアノは、申し分ないほどのはかなげな温かさを感じさせる。
作曲者
テノール
ピアノ