原初の音楽を思わせるようなシンプルさと、まるで2020年代に生み出された最先端の楽曲であるかのような新鮮な響きが、リスナーをここではないどこかへといざなう。このアルバムでフランスの俊英ピアニスト、ベルトラン・シャマユが奏でているのは、実験的な作品で知られる20世紀アメリカの作曲家ジョン・ケージが、1940年から1945年にかけてプリペアドピアノのために書いた楽曲。これらの曲は、シャマユとダンサー兼振付師のエロディ・シカールが共同で制作したソロダンスのためのパフォーマンス『CAGE²』で使われたもので、本作にも公演時の曲順のまま収録されている。ケージが考案したプリペアドピアノは、ピアノの弦に金属製のねじや、木片、ゴム製品などを挟んだり乗せたりすることで、打楽器を思わせるユニークな音を生み出すもの。名手シャマユはこの楽器から実に多彩なサウンドを引き出し、ケージによる短いメロディの繰り返しと印象的なリズムからなる楽曲の本質を存分に生かしながら、万華鏡のような魅惑的な音世界を作り上げている。それをしっかりと伝える録音も素晴らしい。実験性や革新性だけではなくジョン・ケージの楽曲が本来持っている音楽的魅力を再認識させる力を持った快作。
作曲者
ピアノ、プリペアドピアノ