フランスのピアニスト、ダヴィッド・カドゥシュは、このバリエーション豊かなアルバムの冒頭で、プーランクの「即興曲第15番 ハ短調 FP176“エディット・ピアフを讃えて”」を軽快かつ繊細に奏で、雰囲気を盛り上げる。この曲は、ショパンが活躍したサロンの世界と、ピアフが歌ったナイトクラブの中間のようなスタイルを持っている。
その後には、伝説的なピアニスト/作曲家パーシー・グレインジャーが華麗に“パラフレーズ”した、チャイコフスキーの「Waltz of the Flowers(花のワルツ)」(『くるみ割り人形』より)が続く。カドゥシュによるきらびやかで魅惑的な演奏は、この曲が持つ快楽主義的なキャラクターとありのままの官能性を際立たせたものとなっている。
このアルバムでカドゥシュが奏でる楽曲を書いた作曲家たちは、いずれもLGBTQ+であり、彼らのほとんどは公の場で愛を表現することができなかった。そんな作曲家たちにとって、音楽は正直な自分でいられる安全な場所だった。その表現は、グレインジャーによる「Waltz of the Flowers」よりも繊細な場合が多い。プーランクの「メランコリー」のような切なさもあれば、エセル・スマイスの印象的な小品「Aus der Jugendzeit!!」が持つ、陰うつな恋慕の念もある。
このアルバムからは新たな発見を得ることもできる。ポーランドの伝説的なハープシコード奏者、ワンダ・ランドフスカが作曲した3曲は、これまでに録音されたことがない。中でも「Feu follet」は、特に技巧的かつ魅惑的だ。このように非常に充実した内容の本作の中でも最も印象的なのは、シマノフスキによる『ポーランド民謡の主題による10の変奏曲 ロ短調 Op.10』だろう。この作品は、冒頭から終曲にかけてドラマチックなアーチを描いている。「Var.VIII」は、暗うつでありながら力強くもあるロマン派風の葬送行進曲であり、「Finale」は勝利の喜びと快活さにあふれた雰囲気で始まり、厳粛な趣を保ちながら、豊かなテクスチャーのフーガを築き上げていく。