アルバムの幕開けを飾る『鍵盤楽器のための協奏曲第1番 ニ短調 BWV1052』の冒頭で、リスナーは瞬時にして、ベアトリーチェ・ラナとアムステルダム・シンフォニエッタが作り出す鮮やかな音世界に引き込まれる。そこにあるのは、絶妙に変化するテンポ、ダイナミクス、そして情感のすべてがぴったりと一致した、ピアニストと弦楽オーケストラの活力あふれる演奏だ。ショパンとベートーヴェンのソナタを収録した前作も高い評価を受けたベアトリーチェ・ラナがこのアルバムで取り組んだのは、ヨハン・セバスティアン・バッハによる一連の鍵盤楽器のための協奏曲の中でも特に人気が高い『第1番 ニ短調 BWV1052』『第2番 ホ長調 BWV1053』『第3番 ニ長調 BWV1054』『第5番 ヘ短調 BWV1056』の4作。ラナとアムステルダム・シンフォニエッタは、10公演に及ぶツアーを行った直後に本作をレコーディングしていて、それが両者の呼吸が見事にそろっている理由の一つになっているのは間違いないだろう。速いパッセージが多い『第2番』の第3楽章では、輝くような音色とともに疾走するラナのピアノとオーケストラのスリリングな対話に心が躍る。また『第5番』の第2楽章では、控えめでいながら強い印象を与えるピッツィカートによる伴奏の上で、ラナが繊細に奏でるメロディが心に染みる。
作曲者
ピアノ
アンサンブル、オーケストラ