「これらのギターは、すごく親しみが感じられるもので、とてもデリケートで、とても壊れやすくて、そして多彩な音色を持っています」とラファエル・フイヤートルはApple Music Classicalに語る。「その音色は、温かくて、まろやかで、そして極めて繊細なものなので、何を弾いてもそういう響きになります」。ここでフイヤートルが言及しているのは、彼が本作『Spanish Serenades』で演奏している3本のギターについてだ。それぞれのギターはかつて、イサーク・アルベニス、ミゲル・リョベート、フランシスコ・タレガというスペインの偉大な作曲家たちが所有していたもので、現在はイタリアやパリのコレクターによって、当然のことながら厳重に保管されている。フイヤートルは、このアルバムに収録したギターの名曲を個性的なサウンドで奏でるため、一時的にこれらのギターを貸し出してもらった。「すごく新鮮な解釈をしたいと思っていたところ、これらの楽器が私を導いてくれました」と彼は言う。 2023年にリリースしたドイツ・グラモフォンからの最初のアルバム『Visages baroques』で、17世紀後半から18世紀にかけて書かれたフランスやドイツのレパートリーを取り上げたフイヤートルは、本作で19世紀後半から20世紀初頭のスペインへと移動し、強い日の光の中で物思いにふけるかのような情緒を醸し出している。アルバムの冒頭を飾るアルベニスの作品『スペイン組曲 Op. 47』からフラメンコの香り高い「Asturias. Leyenda」に始まって、タレガがアンダルシアと北アフリカを旅した時に耳にしたアラブの音楽やムーア風のスタイルを取り入れた『アラブ風奇想曲』まで、当時隆盛した民族主義的な考え方を背景にした収録曲は、いずれもスペインならではの響きを誇らしげに表現するものだ。これらの曲は古くから伝わる民謡に基づいているのだが、演奏するには非常に高度な技術が必要となる。また、高速のトレモロが繰り返されることで有名なタレガの「アルハンブラの思い出」や、同じくタレガが弟子たちのために書いた一連の優美な前奏曲など、並外れた機敏さを求められる曲も少なくない。 前作『Visages baroques』で、オリジナルがチェンバロ曲であるものも取り上げていたのと同じように、本作の収録曲もすべてがもともとギター曲だったわけではない。例えばフイヤートルは、グラナラドスがピアノのために書いた「Andaluza」をヴァイオリンとギターのために編曲し、新星ヴァイオリニストのマリア・ドゥエニャスと共に奏でている。「私はただ、自分が弾きたい音符が正確に書かれた自分用のスコアが欲しかったのです」と彼は言う。またフイヤートルは、ロドリーゴの名曲『アランフェス協奏曲』の演奏が難しい理由の一つは、作曲家自身がギタリストではなかったことだと付け加える。「ギターを弾く人なら分かるでしょう。中でも非常に速くて難しいのが第3楽章です。ギターでは押さえにくい和音がたくさんあるので、それらを弾くために指をかなり素早く交差させないといけないのです」 偉大なギタリストたちの演奏を聴き、そこから学びを得ながら育ったフイヤートルは、アンドレス・セゴビアやパコ・デ・ルシア、ナルシソ・イエペスに大きな影響を受けてきた。しかし、新しいアイデアを持ち込む余地は十分にあると彼は言う。「『アランフェス』では、特にカデンツァの部分ではクラシックギターでできることの限界に挑んで、フラメンコの響きにより近づこうとしました」。彼はフラメンコを聴くのだろうか。「もちろんです。スペインには何度も行っていますし、そのたびにフラメンコを見に行っています。あの音楽スタイルが大好きなのです。若い頃はフラメンコギターを弾きたいと思っていましたが、クラシックギターとはまったく違うので別の楽器が必要ですし、爪を傷めてしまいます」 フラメンコの原動力となっている喜びと悲しみは、本作『Spanish Serenades』の収録曲の中にすべて込められている。例えば、リョベートの「アメリアの遺言」は、嫉妬深い継母に毒を盛られた王女の最後の時間を描いたカタルーニャの民謡に基づいている。同じくリョベートによる「盗賊の歌」は、死刑宣告を受けた泥棒が人生を振り返るというもの。フイヤートルは、は楽曲に込められた悲しみをギターで見事に歌い上げていて、とりわけ『アランフェス』の第2楽章「Adagio」ではその表現が際立っている。この協奏曲は1939年、スペイン内戦とフランシスコ・フランコの台頭後に作曲されたものであり、ロドリーゴがトルコ出身のピアニスト、Victoria Kamhiとアランフェスで過ごした新婚時代の幸福と、最初の子どもが流産になってしまったことによる深い悲しみの両方を想起させる作品となっている。「特に第2楽章は、直接心に響きます」とフイヤートルは語る。
作曲者