ピアノ協奏曲 イ短調
Op. 54
驚異的な成果を上げた1841年のいわゆる“交響曲の年”に、ロベルト・シューマンは『交響曲第1番』『交響曲第4番』の初稿、『序曲、スケルツォとフィナーレ』といったシンフォニックな作品や、イ短調の協奏的な作品「ピアノと管弦楽のための幻想曲」を書いた。そして4年後の1845年、この「幻想曲」を改訂したものの後に、間奏曲と華やかなフィナーレを加えて完成されたのが『ピアノ協奏曲』だ。第1楽章の冒頭ではオーケストラによるEのユニゾンが炸裂し、それに応えるかのように、緊迫感をまとったソリストが力強く登場する。続いてオーボエとピアノがこの作品を貫いていく下降する3音の主題を奏で、さらにクラリネットとピアノによるロマンチックなデュエットやカデンツァを経て、最後には斬新なマーチがリスナーに強い印象を与える。「間奏曲」と題された第2楽章の冒頭では4音の上昇するメロディをピアノとオーケストラが交互に奏で、その後も二者の対話が穏やかかつ優雅に繰り広げられていく。そしてこのコンチェルトはそのまま切れ目なく軽快で高揚感に満ちた終楽章へと続いていくのだ。作曲者の妻であるクララ・シューマンの独奏で初演されたこの協奏曲は、ロベルトの作品の中で最も多く演奏される曲の一つとなった。またベートーヴェンの後に続いたロマン派の作曲家たちのコンチェルトの中で、最も重要な作品の一つであるこという評価にも異論を挟む余地はない。ロベルトがこの世を去った後の1858年にクララの演奏でこの協奏曲を聴いたグリーグは大きなインスピレーションを受け、その10年後の1868年に同じイ短調で自らのコンチェルトを書いた。
