アメリカのソプラノ歌手ジョイス・ディ・ドナートは、オペラ界の多くのスター歌手たちの中でも特別な輝きを放つ存在だ。強さと美しさを兼ね備えた声を、柔軟性をもって自在に操る技術によって、彼女の表現の幅と活動の場を広げている。2013年のBBCプロムス“ラスト・ナイト・オブ・ザ・プロムス” における「Somewhere Over the Rainbow」の歌唱、そして世界の名だたるオペラハウスでロッシーニのオペラを歌った数々の名演は、多くのリスナーの記憶に刻まれていることだろう。そんな彼女が力強い歌声を持つ歌手としての技量と、役者としての優れた演技力を遺憾なく発揮したハイドンの「Arianna a Naxos」でスタートするこのリサイタルには、実に幅広いジャンルの音楽がラインナップされている。ハイドンの後にはロッシーニらによるイタリア歌曲が続き、プログラムの後半にはスタンダードナンバーやミュージカルの名曲など、多くのアメリカ音楽が並んでいるのだ。イマジネーションあふれるピアニストとしてディ・ドナートを献身的に支えるTonyこと、名指揮者アントニオ・パッパーノとのコンビによる本作、その名も『Joyce & Tony』には、彼女のしなやかで多彩な歌声のすべてが注ぎ込まれており、終始楽しく、圧倒的な魅力にあふれた快作となっている。