米国の作曲家ジョン・アダムズにとって3作目のピアノ協奏曲は現代最高峰のピアニスト、ユジャ・ワンのために書かれたもので、2019年の3月にロサンゼルスで初演された。本作はその録音作である。タイトルの『Must the Devil Have All the Good Tunes?』はアダムズが興味を引かれたという雑誌『The New Yorker』の記事から取られている。この一節にインスピレーションを受けたアダムズは、プログラムノートに「それはリストの『死の舞踏』を思わせる言葉だが、リスト風の超絶技巧を生かしたフレーズのみならず、エネルギッシュで野性味あふれるアメリカ音楽のスタイルをもイメージさせた」と記している。その言葉通り、このコンチェルトは疾走するリズムと複雑なハーモニーを内包しており、それらはワンの驚異的なテクニックと表現者としての唯一無二の個性を最大限に引き出している。グスターボ・ドゥダメルが指揮するロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団の絶妙に息の合った演奏も見事なものだ。アルバムを締めくくるワンのソロピアノによるアダムズの代表作「China Gates」も名演。