この2020年と2021年のザルツブルク音楽祭の感動的なリサイタルを聴けば、エリーナ・ガランチャほどワーグナーの『Wesendonck-Lieder』の高揚感と深い悲しみを鮮明に表現できる歌手はごくまれな存在であることがわかるだろう。まるで世界規模のロックダウンによるライブ公演の危機的状況と、ワーグナーのかなわぬ恋や心の葛藤が重なって響いているかのようだ。フェリックス・モットルのオーケストレーションによるワーグナーのオリジナルのピアノ伴奏は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって室内楽のように奏でられ、圧倒的な激しさの「Im Treibhaus」でもガランチャの金色の歌声を優しく包み込む。同じく内省的な内容をもつマーラーの歌曲集『Rückert-Lieder』における辞世の句「Ich bin der Welt abhanden gekommen」(私は世界を見失う)での歌声は、まるで催眠術のような魅力を放っている。