- エディターのおすすめ
- 1992 · デイヴィッド・ジンマン、ボルティモア交響楽団
サミュエル・バーバー
プレイリスト
- nagel - patkolo piano duo
バイオグラフィー
もしも、サミュエル・バーバーが1936年に完成させた「Adagio for Strings(弦楽のためのアダージョ)」の他に何も書かなかったとしても、彼は間違いなく不滅の存在となっただろう。1945年にフランクリン・ルーズベルト大統領の訃報とともに放送されたこの曲は、その深いカタルシスと哀愁に満ちた曲調で、アメリカにとって不可欠な国民的音楽としての地位を確立し、その後も大統領の葬儀において、あるいはテロ事件の発生時に、そして最近ではコロナウイルスの大流行で亡くなった人々を悼むためにも演奏されている。また、『The Elephant Man』(1980年)や『プラトーン』(1986年)といった映画にも、この曲が独特のペーソスを与えた。しかし彼は決して“一発屋”ではない。「アダージョ」の後にも多くの作品を書き、20世紀半ばのアメリカを代表する作曲家の一人となったのだ。バーバーは1910年にペンシルベニア州で生まれ、カーティス音楽院で学んだ後、イタリアに留学している。カーティス音楽院ではイタリア系アメリカ人の作曲家Gian Carlo Menottiと出会い、芸術的コラボレーター兼人生のパートナーとなった。『バイオリン協奏曲』(1939年)、『チェロ協奏曲』(1945年)、『ピアノ協奏曲』(1962年)や二つの交響曲(1926年、1944年)といった作品は、彼の音楽の表面に見られる叙情性とポストロマン派的な調性のスタイルの下に、筋の通った強さと時に辛辣(しんらつ)な表現を含んでいる。最初の本格的なオペラで多くの称賛を集めた『Vanessa』(1958年)と、当初は不評だった『Antony and Cleopatra』(1966年)の二つのオペラは、いずれも作曲家が1981年に亡くなった後に再演され、再評価されている。そして「アダージョ」は、弦楽器で演奏されても、バーバー自身による合唱版で演奏されても、彼が遺した永遠のレガシーとして輝き続けている。